住職の法話 第27回 成仏(仏教用語の難しさ)

仏教で使う言葉(仏教用語)と言うのがクセ者でしてね、例えば何気なく使っている「成仏」と言う言葉は我々僧侶の中でも宗派によって少し受け止め方が違うことがあります。まして一般の方はどのように受け止められているのか私にもわからないんですね、だから私が思う成仏の話しをしても上手く伝わらないってことがあります。

どうでしょう、成仏って文字通りであれば仏様に成るってことですけど、みなさんは「死ぬ事」だと思ってる場合も多いですよね。もちろん仏様が仏様である条件としては「煩悩」が全く無いというのが一つありますから、生きていては成仏できませんね。ですから成仏するには死ぬ事は間違い無い訳です。でもそうすると今度は「煩悩」とは何かと言う話しになって来ます。煩悩の大半は「欲望」とも言えますが欲望以外にも有るのですが、まず欲とは何でしょうね。

人間の欲って何かと言ったら五つあります。動物は三つです。
共通するのは①食欲②睡眠欲③性欲(色欲)ですね、これは人間も動物も同じ。そして人間は更に④財欲、お金欲しいですね、そして⑤名誉欲、偉くなりたいですね。これらの欲は死ぬまで無くなりません。まぁ、④と⑤は少なくはなりますがゼロにはなりません。この前。ご門徒さんにそんな話をしてたら「和尚さん、私はこの年(80歳くらい)になったら色欲なんて一つもありゃしないよ」とおばあちゃんが仰るんですけどね、私は言いましたよ、お母さんね今日お寺に来る前にちゃんと鏡見てねお化粧して着るものも何を着ていくか考えて身なりをきちんとしてからいらしたでしょ?それも色欲なんですよと。

そして、今度はお爺さんの門徒さんは「和尚さんね現役のときは出世したいと思っていたけどね、このように隠居したらそんな欲は一つも無いよ」とおっしゃるから、でもねこの前いらした時には老人会の会長が自分の気に食わないやつが選ばれたと言って怒っていましたよね、それって何故自分が選ばれないのかって事ですよね、立派な名誉欲ですよと。

ですからね、欲というかやつは人間死ぬまで無くならないのです。でもね、それで良いんですよ。
例えば「向上心」と言う耳触りの良い言葉だって欲望です。
食欲が無くなったら痩せ細って死んでしまいます。だから欲望は生きている為に必要なものなのです。

話しを戻します。煩悩とは欲望以外にもあります。心の問題です。妬み嫉み、悲しみ、苦しみ、悩み、愛欲(純粋な愛情とは別)なども煩悩だと言われています。 

ですから、煩悩が無くなれば全て苦しみ悩みから解放されて穏やかで安寧の世界が成仏の世界だと申し上げています。
私たちの命は限りがあります。そして全ての人は亡くなります。これは厳しい現実です。そこに宗教の存在意義があります。自分が死んで地獄に行きたい人は居ません。蓮如上人は何度も何度も「後生の一大事」と言う言葉をお使いになっています。

死を意識するのは人間だけです。
でも有り難いことに私たちは死んだら成仏するのです。善悪を問わずです。
そして、煩悩がありませんからね、生前に嫌だった人とお浄土で再会してもいがみ合うこともありません。お互いを仏様として認識して敬い尊びあうのです。

よく聞く話しですけど、門徒さんの中に後妻さんがいらしてね、私が死んだら先妻さん墓に一緒に入るのは嫌だとおっしゃいます。しかしね、墓が同じだろうが別だろうが関係ありませんね。そもそもお骨とは「かたみ」です。つまりモノです。もちろんその方の大切な「かたみ」だからお墓にお祀りする訳ですけれども。魂(正確な表現ではない)と言うのはお浄土という世界に行って仏様として生まれるのです。そこで先妻さんとお会いしても生前のしがらみは存在しないのです。お互い仏様として敬い合うのです。

さて、仏様とはそう言う存在です。そして、更に仏様はお浄土にずっと留まっていらっしゃるのではありません。何度もこの世に戻って来られて私たちをお導きくださるのです。これを回向(廻向)と言います。わかり易く説明すると回向とは供養の反対語です。
一般的な解釈として皆さんは亡くなった方に何かして差し上げようと思いますね。お線香をあげたりお供物をしたり、それらの行為を供養と言いますね。皆さんが仏様の為にご供養をなさると、仏様はそのお返しに回向をしてくださいます。回向とは「慈悲心」を私たちにくださる事なんです。
例えば皆さんがお墓参りをします。亡き方の為に手を合わます。亡き方の為に手を合わせたにもかかわらずお詣りが済むと何故か心が落ち着きますよね。ほっとします。これが回向の「おはたらき」です。ですから何度も申し上げますが私たちと仏様の関係は一方通行では無いと言うことです。
そして、それゆえに仏様の世界は必ず有るという証でもあるのです。

少し成仏と言うことがお判りいただけたでしょうか。
いつものようにお念仏しましょう。なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ。合掌